わたしの珍職業:探偵(応募、面接編)

…あれ?今日って何日?ってか今は何時??

AV制作会社を退社した後、わたしは完全なる廃人と化していた。

生きるために食べるという行為だけし、あとは1日の大半をベッドの中で過ごすひきこもり生活。

家から1歩も出ず、日中も部屋のカーテンを閉めきり誰とも顔を合わせない日々。

こんな毎日を続けると、睡眠サイクルは狂うし、朝なのか夜なのかさえも不明に。

1か月なんて一瞬で過ぎ、気がつけば2か月目突入。

それでも生活は変わることなく、時間だけが無駄に過ぎていく。

蓄えていた貯金のおかげで最低限の生活はできていたのもあり、なかなか抜け出せず。

このままでいいわけない。

わかっていたけど、とにかくやる気が出ないし、そもそもやりたいことだって思い浮かばない。

ノコノコ大阪に帰るなんて絶対ムリ。

落ちこぼれのレッテルを貼られてさ、アイツはできない奴って見られるんでしょ?

そんなこと許せるわけない。

でもわたしにできることって?

何が自分にむいているのかわかんない。

ねぇ、誰か教えてよ。

あぁ…また闇に堕ちちゃうじゃん…。

思い返してみれば、20代前半は進むべき道がわからなくてもがいていた。

そのくせ人からよく見られたいとか、意味不明な見栄だけ立派でさ。

ブランドものが欲しかったのだって他人に映る自分の姿が全てで、虚像でも何でもいいから自分を大きくみせたかっただけ。

中身のないただの空っぽ人形だったんだ。

堕落生活も3か月くらい経つとさすがに危機感を持つようになり…。

このままじゃわたしホント再起不能になっちゃう。

さすがにまずいなぁ、次を探さないと。

そうして埃をかぶったパソコンに電源を入れた。

片っ端から求人広告を漁るも、ピンとくるものがない。

目の前の画面に焦点を当てることなくボケーっとしていると、あることが急に降りてきた。

そういや探偵ってどんな仕事なんだろうか。

浮気調査??はたまた…。

早速キーボードをタイプ。

探偵事務所

そしたら色々な会社が出てくるのよね。

裏っぽいイメージだったけど、意外と普通のサイトが多く。

”探偵になるには資格がいるの?”

うん、それめちゃ気になるやつ!

すぐさまクリック。

そしたらなんと無資格で誰でも探偵になれるらしい。

探偵育成所もあるみたいだけど、マストではないとな。

上から順に片っ端から探偵事務所のサイトを開く。

正直どこも似たり寄ったりな感じ、コレ!というのがない。

そんな中、変わった社名が目に留まる。

調べたところ今でも営業をしているようで、この先どんな仕事をしたのか書いていくから社名は伏せておく。

どれどれ…おっ、ここの代表は芸能業界と繋がりのある仕事をしてたのかぁ。

裏事情とか知ってそうだし、なんか面白そうだぞ。

よしっ、ここに決めた!

思い立ったら即行動。

マンションの隣にあるセブンイレブンで、履歴書を買うため久々に外出を。

ひきこもりニートがようやく重い腰を上げた。

エレベーターを降りエントランスを出た瞬間、眩しい太陽光に顔を刺され思わず目を細める。

大都会東京、排気ガスまみれの薄汚れた空気でさえどこか新鮮で清々しい感覚。

目の前には青梅街道を行き交う車、牛丼屋から満足気に出てくる男性、楽しそうに手をつなぎ微笑み合っているカップル…。

すべて見慣れた日常の風景なはずなのに、一瞬にしてわたしの周りだけセピア色のバリアが張られ、別空間に置いてきぼりにされたような疎外感を覚えた。

わたしが3か月ひきこもったからといって、世界は何も変わらないし誰も気にも留めやしない。

たとえいま自分が消えたとしても、世間に1ミリも影響なんて出ないんだ。

いなくなりたい願望があったわけじゃない。

ただわたしが生きてようが、くたばってようが、もがき悩んでいようが、他人様にとってはどうでもいいことで、わたしの存在自体に意味があるのか疑問に感じて。

自分だけ時が止まっていた世界から現実へと引き戻されたわたしは、ふと我に返りとぼとぼコンビニへ歩き出した。

履歴書とじゃがりこを手に持ち、暗い閉鎖空間へと戻る。

どうでもいい情報だが、わたしはじゃがりこが大好きだ。

不健康だけど以前は1日3食じゃがりこなんてときも。

まぁ病気になってからはそんな暴食はしてないけど、今でもスーパーで目にするたびカゴへいれたい衝動にかられる。

下界でのモヤっとを残しつつ、履歴書をさくさく埋め投函。

どうか次に繋がりますように!

そう願いをこめたが、1週間経っても音沙汰なく。

秀でたスキルがあるわけでもなく、実務経験者でもなく、わたしはただの20代オンナ。

魅力的な経歴なんてないから、探偵という特殊な職業は難しいかなと思ったけど諦めきれない自分もいて。

ネットで得た情報だけしか知らないのに、どうしても入社したいという気持ちを手紙に書いて送った。

そしたらなんと数日後にその事務所から連絡があり、面接へとこぎつけたのよ。

やった~!わたしの思いが届いたんだ!

ナメクジがわきそうな湿っぽく薄暗い部屋で1人ガッツポーズ。

こうしてマンションの住所を書いたメモを握りしめ、探偵事務所へと向かった。

新宿中央公園近くにある大きなマンションの1室がそこのオフィス。

口から心臓が出てきそうになるくらい緊張しながらインターホンを押したのを覚えている。

やべー、勢いでここまで来ちゃったけど本当にこれでよかったのだろうか…。

わたしが足を踏み入れようとしている世界は、知らないほうがいいところだったりして(汗)

これまで感じたことのない、あぶら汗のようなものが頭皮から吹き出る。

脇汗もびっしょりだ。

どうする!どうするわたし!!!

あたふたしていると、重そうなシルバーのドアがゆっくり開く。

「…面接の方ですか?」

ドアの先に立っていたのは黒髪ストレート、チャランポランなわたしとは真逆の知的タイプのお姉さんだった。

「あ、はい!め…面接に来ました!」

キッチン、バスルームつき3LDKの住居用マンションをオフィスにしていて。

リビングルームらしい部屋へ通されると、そこには壁に向かってパソコンが6台ほど並び、3人の男性がキーボードをカタカタと。

「面接の方をお連れしました」

知的女性が口を開く。

その声を聞き、部屋の1番奥に座わりタバコをふかしている男性がチラリとこちらに目を向ける。

「あー今日面接だっけ。ちょっとこっち来てくれる?」

目線の先に映るその男性は50代くらいだろうか。

金色に近い茶髪のクルクルパーマ、目つきが悪く、茶褐色の唇。

青の色味がかったサングラス、白Tシャツにワインレッドのレザーパンツという出で立ち。

見るからに怪しい、堅気ではない。

この人こそが探偵事務所の社長だった。

「えーと、これが履歴書ね、はいはい」

「職歴にあるSODクリエイトってまさかアダルト系の?」

いきなりそこかーい!

「は、はい、そうです…」

「へぇ~あなた女優さんだったとか?」

「とんでもないです!わ、わたしはへアメイクのアシスタントでした!!」

「ふーん、そうなんだ」

全くもってわたしに興味なさげ(汗)

というか知的女性と他の男性もいる部屋の中で公開面接!?

話の内容、筒抜けじゃん。

まぁ誰1人こっちを見ようとしないし、パソコンカタカタだけどさ。

いまいち盛り上がりのない雰囲気の中、1人の男性がスッとある紙を社長に手渡した。

それに目をやった社長がピンときたような表情で

「あぁ君、うちに入社したいって手紙送ってきた子だぁ」

「いや~ごめんね、すんごく忙しくて履歴書に気づかなくてさ」

「そしたらコレが届くんだもん、ビックリしちゃったよ」

「だって今までこんな手紙送ってきた人なんていないからね~」

「うん、君おもしろい!で、いつから来れるの?」

…へっ?

わたくし採用されたのけ??

SOD同様、話がトントン拍子に進み、晴れて探偵デビューを果たしたわけです。

この事務所で過ごしたのは1年くらいと短い間だけど、濃密な時間であったのは間違いなく。

次は探偵としてどんな仕事をしてきたのか書いていきたいと思います。

探偵【仕事編】へとつづく。

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