完璧ジェームスペースのまま2軒目のバーへ。
お次は洋館一軒家で、敷地内に入ると素敵にライトアップされたムーディーなお庭にテーブル席があり、お酒を楽しむ人々が見えた。
お屋敷の中はクラシックでアダルトな雰囲気。
若者のたまり場のような1軒目のバーとは異なり、こちらは大人の社交場のよう。
うわぁ、すごいいい感じのところじゃん。
さすがシルバーレイクの住人だけあって知ってるね~。
気分はすっかりおのぼりさん。
「ひとまずパティオで飲もっか?」
ジェームスに促され中庭端のテーブル席へ。
椅子に座ってほどなく、ジェームスの放った言葉に耳を疑った。
「あのさ1時間も遅れてきたら、ドリンクぐらいご馳走するのが普通だよね?」
人を小バカにしたように、鼻で笑いながら続けるジェームス。
「 いやね、別に俺がそうして欲しいからってわけじゃないんだけど、これが常識っていうかさ… 」
一瞬”アンタ何言っちゃってんの?”
日本語が出そうになったのを飲み込み
「そ、そうだよね(汗)ごめん、ごめん気遣いできなくて」
「ドリンク買ってくるよ、何がいいかな?」
「うーん、じゃあビールで♡」
その場から逃げるようにバーカウンターに向かった。
えっ!ちょっとヤバすぎんかジェームス!?
言われなくても遅れてごめんの意味でご馳走するつもりですけど?
なのにさ、面と向かって奢るのが普通っしょ?とか女の人に言う?しかも初対面よ???
もう頭が真っ白。
今日は諦めて英語のお勉強だと思えばいいか、と自分を納得させようとしたけど、如何せん会話もイマイチ盛り上がらず。
とにかく全く楽しくない。
ビール片手に席へ戻ると、携帯を触りながら愛想ナシに
「お、Thank you」
もう私しゃ完璧なパシリ確定だわ。
いや、これは新種の頂き男子か!?
もう何を話したか覚えていないくらい弾まない会話、退屈な時間。
ジェームスも同じように感じたのか
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
そういって、席を立つ。
彼が去ったのを確認して、ふぅ~と大きくため息。
単にお友達ができれば…くらいに始めたデーティングサイト。
そもそもサイトで友達関係を望んでいること自体間違っているのかな?
なんて考えつつジェームスを待つ。
20分以上経っただろうか。
一向に戻ってこないジェームスが心配になり、お手洗い方面へ行ってみると…。
そしたらバーカウンターでカップルと親し気に話しているジェームスの姿があった。
ウソでしょ??わたしをほったらかしにして何やってんの?
あなたはジェームス星から来た宇宙人ですか??
もはや彼の言動や行動が、わたし全く理解できないんですけど。
別に姫様扱いしてほしいわけじゃない。
でも、わたしの中の”普通”ならこんなことしないわ。
正直、このまま帰ろうかと思った。でも…
「ジェームス、ここにいたんだ~。どこ行ったのか心配したよ」
「そう?いやね、この人達すごく面白くてさ」
「あ、ひょっとして友達だった?」
「ううん、今知り合ったばかり」
「俺DJじゃん、こうやっていろんな人と話すの好きでさ」
そしてお構いなしに、カップルと会話を続けるジェームス。
いや、DJとか関係ないやろ!
そもそも君がDJなのかも、わたしは怪しいと踏んでますけど。
これはあかん!もう時間の無駄。
この人といくら一緒にいても仲良くなれるような人種じゃないわ。
わたしの常識と彼の当たりまえがあまりにも違いすぎる。
わたしなら初対面で相手をほったらかしにして、ウロウロなんて絶対しない!
これは文化の違い?ジェームスがおかしいの??
そんなこともう、どうでもいい。
しびれを切らして帰ろうとしたとき
「はーいReiko、テキーラ、気分あげてこ♡」
ニコニコで勢いよく飲み干しライムをかじるジェームス。
わたしも強制的にテキーラショット。
一体なんなんだよ、これは…。
完全帰るタイミングを逃したじゃん。
カウンター端により少しジェームスと会話をしていると
「俺ね、料理が得意でさ、家でパスタ打ったりするんだよ」
「へぇ~すごいね。そしたら家にパスタマシーンがあるの?」
「もちろん!プロ仕様さ」
「わぁ、いいな。家で本格パスタが食べられるとか最高だよね~」
「Reikoも料理するんだ?」
「うん、基本自炊してるよ~」
「おお!俺んちね、フライパンをさキッチン上にかけてレストランぽくしてるんだよね」
「素敵じゃん!おしゃれなんだろうな~」
「うん、けっこう自慢(笑)Reiko料理するんだったら絶対テンション上がるよ」
「そうだ!今からうちおいでよ。キッチンとパスタマシーン見せたいし」
…やってもた!!!!話合わせただけなのに、この展開まずいやつ!!!
家とか絶対行きたくないし!
ジェームス信用ならんし、宇宙人だし無理ムリむーりー!!!
「あぁ…今日はいいや、次回また見せてよ(汗)」
「えーいいじゃん、ちょっとだけだし」
そういってわたしの手を引き、お店を出るジェームス。
「ちょ、ちょっと待ってジェームス!」
「大丈夫だよぉ~、うちの家もうすぐそこだから」
そういう問題じゃないって…!
たしかにジェームス宅はそのバーと目の鼻の先だった。
木造でちょっとレトロな佇まいのタウンハウス。
木の階段をテンポよく登るジェームス。
はぁぁ…断りきれず来ちゃったじゃん…。
でもキッチンみたらすぐ帰ろ。
わたしのこんな思いなんて知るわけもないジェームスは、ルンルンでルームツアーをしてくれた。
彼が言うように、フライパンや鍋が上から吊るされ、レストラン仕様ぽくおしゃれではある。
シルバーで重厚感あるパスタマシーンもご立派だ。
「ホントすごいね、レストランじゃん」
「さてと、わたしもう帰ろっかな」
そそくさと退散しようとしたそのとき
「え?まだ来たばっかじゃん。ベッドルームもこだわっててさ、ちょっと見てよ」
ベッドルームとかあかん、あかん!
何されるかわからんし、怪しさしかない!!
「そっちはいいよ~。もう遅いし今日はもう帰るよ、また今度ゆっくり見せて」
振り返りドアの方へ歩こうとしたそのとき!
ジェームスの腕が、わたしの体を後ろから包んだ。
やっぱりキターその展開!
だから家行くのとか嫌だったんだよね…。
「じぇ、ジェームスどうしたちゃったの?(汗)」
「いいじゃん、ちょっとくらい」
そういって、くるりとわたしの体を正面に向け、ジェームスが顔を近づけてくる
「う、うわぁ!!ごめんマジ無理!!!」
ジェームスを突き飛ばし、慌てて家を飛び出したわたし。
車を停めた1軒目のバーがどこかわからなかったけど、とりあえず振り返らず全力で走った。
あぁ、マジ最悪っっっ!なんなんだ今日は!!
どれくらい走っただろうか…。
後ろを振り返ってもジェームスの姿はなく、苦痛の時間から解放されたことにホッとした。
ロサンゼルスの夜道を1人で歩くのは危険なことくらい知ってる。
でも、あのままジェームス宅にいたほうがもっと危なかったもんね。
Google Mapを使いどうにか車にたどり着き、運転席に腰をおろした。
まるで悪夢のような日だったわ。
そうして車のエンジンをかけると、光る携帯画面が視界に入る。
”今日は楽しかった。またあそぼうよ?”
げっ!ジェームスからじゃん。
あっちだって全然楽しくなかったはずだろうに、こんなテキスト打ってくる?
次会ったら絶対食われちまう(焦)
結局、しばらくジェームスから遊ぼう攻撃が続いたけど、数日無視してたら諦めたのかピタリと止み、彼とはこの1回きりでそれ以来会うことはなかった。
デーティングサイトには真剣にお相手を探している人もいれば、一夜限りを求めている人だっている。
もちろん変な人だっているから、危険な目にあう可能性も。
それを承知の上でこういったサイトを使うのはいいと思うけど、何があるかわからないという覚悟はしておくべき。
当たりまえだけど2人きりになるような場所にも行かない事。
ジェームスとの夜は、ちょっぴりお高い授業料を払い、アメリカで得た経験になったとさ(笑)
ホント、自分の身は自分で守らなきゃだね。
わからないことなど何かあれば『おたずね箱』からメッセージをお願いします。