シューティングレンジに行く日はフリマの翌週と、わりかし早めに決まった。
レイコに見せたいモノがあるから、僕の家集合でそれからシューティングレンジに行こうよ。
ポール宅かぁ…大して知らない人の家にあがるって抵抗あるんだけど…。
2人きりになるわけだしさ、なんかポールって怪しいというか、暗い闇みたいなのを感じるんだよね(汗)
とはいえ、うまい断り文句も思いつかないや…。
異常な銃マニア男と密室:ポール
そうして気乗りしないまま、ハイランドパークにあるポール宅へ向かった。
今じゃハイランドパークといえば、次期イーストLAのトレンド発信地シルバーレイクと呼び声高い開発の進むエリア。
とはいえ6年前くらいの当時は、今のように開けていなくて、少し下等な町だった。
窓やドアに鉄格子のついた家、ショップがずらりと並び、路上でタコスを売っている人達の風景が目につく。
ハイランドパークって初めてきたけど、わたしの住んでるウエストLAとは全然違う雰囲気じゃん。
たぶんそこまで治安よくないんだろうな。
一抹の不安を感じつつ、教えてもらったアドレスに到着。
そこには築年数経っているであろう、グレーのコンクリート建てのこじんまりしたアパートがあった。
妙なまでに静まり返ったアパートの敷地内で、教えてもらった部屋番号を探す。
中へ進むと、1階奥の端にそのユニットを発見。
しかーし、このアパートどんよりして気持ち悪いなぁ…。
不安を抱えつつ、色褪せたベージュの呼び出しボタンを押す。
10秒くらい待っただろうか。
「Hi!ささ、中に入って」
ドアの隙間からポールの顔がのぞく。
極力部屋の中を見られたくないといった感じで、急ぎめにわたしを部屋へと招き入れる。
そして…カチッと乾いた鍵をかける音が室内に響き渡った。
えぇ、鍵かけるの⁉(汗)ちょっと恐いんですけど…。
恐ろしいと感じたのは、鍵を閉められたからだけではない。
玄関ドアの先に広がるダイニングルームの様子が異様だったのだ。
メタルのテーブルに、アンティーク調の年季の入った黒色のレザーソファ。
家具はこれだけとシンプル。
なんだけど、血を連想させるかのような所々カラダに赤くペイントされた首無し白のマネキン、インドのお土産のようなドデカい象の置物、軍服を着たマネキンなどが家具を取り巻いているではないか。
壁には大きなアメリカの国旗、怪しげなポストカード達。
極めつけはテーブルの上にバタフライナイフと弾丸、そしてガスマスクが無造作に置かれていた。
やばい!ここは絶対危険なやつ!!普通ガスマスクなんて家にないっしょ!!!!
実はポール、テロ組織のメンバーとか⁉(汗)
ちなみにあったガスマスクは、まさにこんなやつ↓
目の前に広がるこの異様な光景に、第六感がヤバいと反応する。
しばし固まっていると…。
「これ、すごくかっこいいでしょ~」
ニヤニヤと奇妙な笑みを浮かべながらポールが話し出す。
「これね、戦時中に使われていたモノなんだ」
「こっちも見て」
そういって取り出したのは、魔界から持ってきたような、おどろおどろしく黒塗りされた、分厚く大きな本。
それをペラペラとめくりはじめる。
「ほら、そこにあるのと同じガスマスクがココに載ってるでしょ。ベトナム戦争に使われたやつなんだけどね」
次から次へとページをめくり、いつどこで使われたのか、目を輝かせながら細かに説明するポール。
その様子はまるで子供が自慢のおもちゃを「見て、みてー!」と言っているようなはしゃぎ具合だった。
「ポール…この本に載ってるガスマスクほとんど持っているんだね(汗)すごい…」
もう何て言うべきなのかわからず、精一杯の言葉を絞り出す。
「ふふ…そりゃそうだよ、だってこの本僕が作ったんだもん」
「だからここに載っているほとんどのマスクが私物だよ」
「これがね、僕の仕事なんだ」
なぬーっっ!!!
ガスマスク本を出版した人初めて会ったし!!
しかもカメラマンっていうから勝手にファッションよりだと勘違いしてたー!!!(汗)
本物のマニアじゃん!!
「あ…カメラマンって言ってたもんね…こういった仕事もあるんだあ(冷汗)」
「ごめん、ちょっとお手洗い借りていいかな?」
まずい…。ここは一旦気持ちを落ち着かせねば。
「もちろん、ここ真っすぐ行った突き当りにあるよ。」
「あ、その手前のドアは開けないでね♡」
は?ドア!?よくわかんないけど、まだ恐ろしいものが眠ってるのか??
…トイレまでもうすぐという時、その開けちゃいけない部屋のドアが半開きになっていて、中がチラッと見えた。
そしたらなんと!ウォークインクローゼットの中におびただしい量のライフルがぎっしり敷き詰められているではないか!!
これはあかん!!!!!
咄嗟に後ろを振り返るとポールが…見たな…といったように恐ろしい表情をこちらに向けている…。
背筋に冷たい汗がツーっとつたう。
慌ててトイレのドアを開け中に駆け込んだ。
ホッとしたのも束の間…。
なんとトイレの壁一面にはヒトラー、ナチス・ドイツ国旗、ガスマスク、幽霊…気持ち悪い写真がビッシリ!
ポールって過激な思想をもった危険人物なんじゃ…。
どうしよう…もうこの場から逃げたい。でも何て言えば…(汗)
あぁ、ダメだ。変な行動をとったら怪しまれるし、何かされたら完全アウト!
結局、何も思い浮かばず、そっとトイレを出た。
「遅かったね、大丈夫?」
テーブルいっぱいにライフルや銃を並べているポールが、こちらを見て聞いてきた。
「あ…うん、大丈夫。そ、その銃たちは??」
「これはシューティングレンジにもっていくやつだよ」
「で、これが銃弾と」
白い箱の中にギッシリと詰まった金色の銃弾をこちらに見せる。
いちいち上目遣いで、こちらの様子をうかがってくるポール表情が不気味で恐ろしい。
そしてライフルを手に取り構えはじめる。
時折、銃口をこちらに向けるポール。
“下手なことをしたら迷いなく撃つぞ” と言われているような気分だ…。
もうどんな反応をしていいのか全くわからない。
思考回路ゼロ。
恐怖で固まっていると…
「じゃ、そろそろ行こっか」
そう言ってライフルをおろし、バッグにつめるポール。
玄関のドアが開かれた瞬間、薄暗い部屋に 太陽という希望の光が差し込こむ。
あぁ、ようやく無事ここから出れるのね(涙)
まるで人質解放。
いや、結局何もなかったんだけどね。
でもさ、あのコレクションの数々、部屋の雰囲気をみたら誰でもゾッとすると思う。
加えてポールのギョロっとした目。
あぁ、怖かった。
もぬけの殻のようになったわたしは道中、ポールと何を話したのか覚えていない。
そうして1時間以上は走っただろうか。
ようやく目的地に到着。
砂漠の奥地、広大な土地に点々と設置された標的、それを的にして人々が横一列に並び銃を撃つ。
これがシューティングレンジだ。
乾燥した大地にパンパンと響く銃声。
見慣れぬ光景にワクワク、キョロキョロしているわたしの横で、ポールはご自慢のコレクションを台の上に並べる。
「銃を撃ったことなければ、これからはじめるといいよ」
そういって渡されたのが大きなライフル。
構えから撃ち方までポールが丁寧に教えてくれたおかげで、はじめてのわりにはけっこう的に当たった。
引き金をひくたび、その衝撃で体が飛ばされそうになったけど、それもまた楽しくて。
無我夢中で撃ち続けていると、いつの間にやら先ほどまで感じていた恐怖感はなくなり、 気分はもうスナイパーですよ(笑)
ちなみに、シューティングレンジでの様子がコレ↓
けっこう様になってると思いません?(笑)
なんだかんだシューティングレンジは楽しかったし、ポールの家に行かなければ、また遊んでもいいのでは?なんて思ったけど、実はこのあとちょっとした出来事がありまして…。
シューティングレンジを後にしたわたしたちは、シルバーレイクにあるメキシコ料理屋さんに行ったんだよね。
そしたら”マジで無理ーーーーーー!!!”っていうハプニングが起きたんですわ。
それがですね、対面式のテーブルに案内されたんだけど、わたしの真横にピトっとポールが座ったわけ。
わたし彼氏でも真横に座る人好きじゃなくて、狭いし対面で座ろうよっていうタイプ。
何の関係もないポールが、真横に座るとかマジ勘弁。
それで一気に興味が失せ、彼とはこの日以来もう会うことはなくなったという(汗)
しかし、まぁ強烈キャラだったこと(笑)
やっぱさ、デーティングサイトで友達を見つけようっていう考えがそもそも甘いのかもね。
アメリカで出会ったヤバい人シリーズ、まだまだ続きます。
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