夫婦を襲う危機

「夫婦円満の秘訣はお互い努力よね」

ネットの記事で読んだり、友人からも聞くこのコトバ。

正直わたしにとってはどこか違和感がありまして。

そりゃさ夫婦とはいえ、いつまでも男女として見続けるためには体のケア、美容など必要なのはわかる。

でもそれは自分のためでもあるから努力ではないと思っていて。

じゃあやるべきことが他にあるのか??

ずっとわからず引っかかっていた。

そして先日ようやくその意味がわかる出来事があったのです。

「もう無理かもしれない…」

突然聞かされた殿様からの衝撃告白。

いつからこうなってしまったのだろう…。

実は殿様には数年前から”もうしないで”そう言い続けていたことがある。

一体どうしてそれをやりはじめたのかはわからなかった。

でもわたしにとってはとても苦痛で嫌なことには変わりなく、殿様がそれをやり続けるがゆえ、彼と距離をとるようになっていたのは確か。

「それやめてってゆってるよね?どうして止めないの?本当に嫌なんだけど」

何万回怒っただろうか。

それでも殿様はやめることなくそれをやり続ける。

「結婚当初はそんなことしなかったじゃん。ねぇ、あの頃みたいに普通にしてよ」

懇願しても聞く耳をもたない彼。

そうすると次第に殿様へ触れたくもないし、触れられることさえも避けるようになり、いつしか会話もしないただのルームメイト化した私たち。

映画鑑賞しながら夕食。

食後はお互い携帯をいじるかyoutubeを観るとかで、たわいもない会話でさえゼロ。

そして朝が来て殿様が出勤。

毎日同じルーティン。

それでも殿様はいつも口にする。

「俺たちはいつも一緒にいてホント仲がいいよな」

友人に話すと”うちはそれないわー!”と言われるのが

午前中に起きてるか?ランチどきには”何たべたか?”、帰宅前の帰りますよ、の1日3回殿様からの電話。

新婚でもあるまいしまだこんなことをするのかと、面倒に対応することもしばしば。

「Your husband loves you so much」

毎日のように言ってくる殿様。

一方わたしはというと、あの嫌なことをされるたびに殿様を突き放し、わたしに触れようものなら全力で拒否。

イラっとすることも増え、”ウザい””キモい””あっちいけ”など殿様への口調もひどく雑になるように。

それでも彼からは毎日I love you so much

こんなことをしてもわたしは愛されているのだ。そう思っていた。

それがある日を境目に殿様の様子が一変…。

明らかにテンションがこれまでとは異なり冷たく、いつもの電話がなければ、わたしを見ようともしない。

「ねぇ!聞いてるの??わたし今あなたに話しかけてるんだけど」

怒り気味に問いかけても無視。

「はぁ…もう一体何なの??近頃ごろ変だよ」

「何かわたしに不満があるわけ?言わないとわかんないじゃん!」

「同じ空間にいるのにまるで私が見えてないみたいに無視するのは何??」

「いい加減こっちも気分悪いわ」

ソファに腰をかけている殿様の横に座り、苛立ちをぶつけてみた。

スローモーションのようにゆっくりと顔をわたしの方へ動かし、虫けらを見るような冷めた眼差しを向ける殿様。

少しの沈黙のあと口をひらく彼。

「俺はねこの数年間、自分なりにできることはしてきたつもりだよ」

「毎日欠かさず電話をしたし、君が喜ぶことだけを考え尽くしてきたと思う」

「その一方で君から向けられる俺への冷たい態度、女性らしくない口調…何度も心が折れそうになったよ」

「それでも俺が続けていればいつか気づいてくれるかもしれない…そんな期待をしていたんだ。でも変わることのない君」

「期待をすればするほど自分が惨めな気持ちになる。だから俺はこれ以上何も望まないし期待もしない」

「もちろん俺がこの態度を続けることにより、お互いの関係が悪化するかもしれないのはわかっている」

「でも正直限界。疲れたんだ、この生活に」

絶句。

結婚して2年経ったくらいだろうか…。

まだ片道1時間かけてオフィスに出勤していたわたし。

帰宅するのが19時すぎ。そこから夕食の準備に片付け。

ちょうどあの頃は社内の雰囲気が良くなくストレスもあり心身共にお疲れ状態。

充電が切れたかのように食後はソファーになだれ込み、そのまま爆睡してしまう日も少なくなかった。

それが原因で自然と夫婦のコミュニケーションは減り、殿様からソファで寝るな!とよく怒られていたっけ。

それでも家事と仕事の両立がうまくできなくて自分で精一杯。

殿様のことは後回しに。

きっとこのあたりから徐々に私たちの関係はほころびはじめたのだろう。

殿様はいち早く気づいていたんだ。

このままでは夫婦関係が悪くなることに。

そうならないために彼なりに一生懸命、わたしへ向ける言葉や態度でサインを出していたんだ。

なのにこの数年、殿様のシグナルに気づくことなく自分が最優先、彼を労わることをしてこなかったわたし。

仕事でうまくいかず八つ当たり、どれだけ酷い態度をとっても彼はI love youを言い続けてくれる。

殿様がしてくれること全てが当たり前で感謝すらもしないわたし。

だってそれは彼がしたいことだから…そう思っていた。

それだけわたしのことを愛しているんだよね?

わたしがどれだけ邪険にしても”今日もかわいいね”そう言い続けてくれるのが殿様だよね??

疑うことすらないとんだ勘違い。

夫婦は鏡。

妹が言ってたっけ。

良かれと思いしてきたことに対して、酷い仕打ちで跳ね返ってくる辛さ。

打っても打っても響かない悲しさ。

受け入れられず拒絶される虚しさ。

数年間、彼はどんな想いでわたしと一緒にいたのだろう。

もうやめよう…。

何度も心が折れそうになるもあきらめなかった殿様。

わたしが言い続けてきた”やめてほしいあの行為”も、彼なりの警告だったのかもしれない。

ねぇ、ちゃんとこっちを見てよ。

なのにわたしは気持ち悪い!やめろ!

なぜ彼がそんなことをするようになったのか考えもしなかった。

今殿様がわたしに向ける態度でようやく彼の気持ちがわかるように。

もう遅いかもしれないけど…。

空気のように扱われる寂しさ、冷酷な態度をされる辛さ。

よく長年耐えてきたね…。

絡み合った糸はほどけなくなるほどにこじれて、どうにもできない状態まできているのかもしれない。

でも傷つけた殿様にできる限りを返していきたい。

それが一番大切な人に対してわたしがやるべき努力なのだから…。

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