常備食をつくりならがらキッチンで懐メロを流している。
40代のわたしに沁みるTKファミリーの曲(小室哲哉さん作)
なんだけどランダムに音楽をかけてたら流れてきたGLAYのHowever
曲中にある
出会うのが遅すぎたね、と泣き出した夜もある
涙はしてないけど、もう少し早く出会っていたなら、この関係は変わっていただろうか…?
そんなほろ苦い経験をした20代。
ただ闇雲に手探りで必死に生きていた東京時代。
自分にできること、得意なこと、何になりたいのか、自分の人生がどこに向かうのかわからずもがいてたっけ。
気を抜いたらプツっと切れてしまいそうな、底辺ギリギリの感情と孤独。
空いた穴に吸い込まれたら最後。
ブラックホールのような闇に堕ちたくなくて。
空きそうな穴を誰かといることで、埋められると思い込んでいたあの頃。
一夜限りの疑似恋愛だけが、不安定な自我を正常に保つ唯一の方法で。
今思えば真剣に誰かを愛したことなんてなかった。
嘘でもわたしを好いていると、言葉を投げかける人がいるだけで安心できたんだ。
切れることがない”ストック”をとっかえひっかえして生きていた。
そんなストックの中で自分の気持ちに蓋をして、関係を続けたオトコがいる。
内に秘めた感情を口に出してしまうと、彼が好きなんだとバレてしまいそうで。
わたし達はそんな関係じゃない。
ただ夜を過ごすだけの都合のいい関係じゃないか。
それ以上でもそれ以下でもない。
だから好きとかそんな面倒な感情は決して出しちゃいけないんだ。
それがこの曖昧な関係を続けるためのルール。
心の隙間を埋めるのにちょうどいい相手。
ときどき呼んでくれた彼の家に行けば、歯ブラシ、ヘアゴム、化粧水…女の痕跡ばかり。
ブツを見るたび、地味にチクりと心が痛んだ。
それでもわたしにはそれが誰のモノなのか問う資格なんてない。
だって都合のいい関係なんだもん。
この関係を望んでいるのも自分。
彼とする会話はただ日本語を話しているだけ。
内容なんて皆無の単調なキャッチボール。
お互い相手の私生活に興味はなく。
でもふとしたときに薄っぺらいこの関係に名前はあるのか聞きたくなり…
酔っぱらった勢いで彼を呼びだしたことがある。
あなたに会ってもう何年もなるけど、未だにわたしと君の間には高い壁があるよ。
これを越えることはできないのかな?
マンションの街路樹にもたれながら、うつろな目をしたわたしが精一杯の気持ちを吐き出した。
突然なにを言い出すんだ、この女は。
そういわんばかりに目を丸くした彼は、一息ついたあとわたしの頭に手をやりポツリ
もう少し早く出会っていたら…。
それ以上言葉を発することなく、哀れんだようにわたしを見つめる彼。
”ねぇ、もし早く出会ってたら付き合ってたの?”
絶対言ってはいけない言葉を目を閉じて飲み込んだ。
”ストック”の入れ替えはあったけど、彼との曖昧な関係はそれ以降何年も続いた。
彼のことだけじゃない。
20代のわたしは素直じゃなく、いつも虚勢と見栄を張り、格好をつけて余裕のあるフリをして、お高くとまっている高飛車女。
本心を打ち明ける相手もおらず。
いや、誰かに頼ることをせず、人と壁をつくっていたのはわたしの方だろう。
あのときはそんな生き方しかできなかったけど、40代になった今はっきりわかる。
中身がなく空っぽな自分ってのがバレたくないから、何者であるかのように虚像をつくっていたけど、そんなの全然意味ないよ。
むしろかっこ悪くて滑稽。
辛いときにしんどいと言え、他人とちゃんと向き合い、素直でいれる人こそが素敵なんだよと。
出会うのが遅すぎたんじゃない。
誰に対しても踏み込ませる隙間をつくなかった、自分が招いた当然の結果。
今は他人に映る自分の姿がどうであれ気にならない。
すごいと思ったら素直に相手に伝えるし、もちろん感謝だってする。
ごく自然体に自分の時間を過ごしている。
もっと早く無意味な鎧を下ろすことができていたら、わたしの人生少し変わっていただろうか。
ほろ苦いコーヒーを飲んだような午後の昼下がり。