わたし達は恋愛して結婚したわけじゃない。
もちろんお互い嫌な相手なら一緒にはならないけど。
殿様は結婚相手を探していたときにわたしと出会い
この辺でいいだろう
と、手を打った感じ(たぶん)
わたしはというと正直、結婚願望はなく。
結婚の決め手になったのは、殿様がびっくりするくらい癌について調べてくれたから。
たとえば発がんリスクのある食材や、ガン予防になる食べ物とか。
こんなことで?って思われるかもしれないけど、わたしにとってはすごく感激なことで。
「この人となら、もしわたしが病気になったとしても、見捨てないでいてくれそう」
ずっと引っかかっていた。
癌になる確率が高いわたしでも、看病しなきゃいけなくなるかもしれない私を、受け入れてくれる人はいるのだろうか?
わたしが服薬中でしばらく子供はのぞめないこと。
ホルモン療法が終わる頃には高齢になっているから、子供を持てるかわからない。
考えられるマイナス点を話しても、「気にしない、大丈夫」そう殿様は言ってくれたんだ。
そうして時は経ち5年。
わたし達は今のところ仲良く暮らしている。
でも、ふと思うんだよね。
もし私たちが恋愛結婚なら、この生活はどう変わっていたのだろうか?
少なくとも恋愛期間には”早く会いたい” ”ドキドキするな” ”このまま時間が止まればいいのに” なんて胸がキュンな感覚が持てただろうか。
変に駆け引きしてみたりさ(笑)
ぶっちゃけこういう感情、殿様には一切なく。
なんだろう…はじめから熟年カップルのような落ち着きと、安心感だったのよね。
殿様と一緒にいて楽しいけど、好きという感覚ではなく、愛情と呼べるようなものがあるのかわからない。
そんなある日、殿様の寝顔を見ていたときにふと思ったことがある。
わたし達は生まれた瞬間から、人生の終わりに向かっているんだよな。
ってことは、殿様と過ごす時間には限りあって、そしてあとどれくらい一緒に笑っていられるんだろう。
こうして横で寝ている彼が、いつか当たり前でなくなる日が必ず来るんだ。
それが明日、1年後、10年後…。
たぶんその日は突然やってくるんだろうな。
そんなことを考えたら急に悲しくなって、そんなの嫌だって殿様を背中をギュッと抱きしめた。
うーん…暑い…。
モニョモニョした声で、さらりとわたしの腕を押しのける殿様。
ふっ…(笑)
なんかおかしくなって笑みがこぼれるわたし。
殿様が好きとか愛情とか、それがよくわからなくたっていいじゃない。
一緒にいる時間が幸せなんだから。
歳を重ね、過ごす時間が積み重なり、それが”愛情”になるのかもしれない。