アメリカで出会ったヤバい人:ハリウッド俳優の甘い罠②

サンタモニカのスタバで連絡先交換をしてから2人で会うまで、さほど時間はかからなかった。

とはいえ、スタバで数十分話したくらいの仲だから、お互いのことを全然知らないわけで。

会う約束の話をしながら、お互いの趣味や好きな食べ物などテキストでやりとり。

どうやらサムもサンタモニカ近くに住んでいて、趣味はレストラン巡り、旅行も好きらしい。

何の話よ?って方はこちらから↓

へぇ~何だか気が合いそうだな。

サムからのテキストを見て、ニヤニヤするわたし。

「サンタモニカにね、僕行きつけのとっても美味しいレストランがあるから、そこに連れていくよ」

待ってましたー!そういうの大好きなやつ!

ローカル人のフーディー行きつけのお店でしょ~、それ絶対美味しいっしょ。

食べるの好きなわたしとしては、テンション上がる、あがる。

穴場とかさ、地元民から人気のお店とか、そういうの大好物じゃんね。

そうしてとある金曜日の夜、サムとはじめてご飯に行くことになった。

当時、わたしはまだ車を持っていなかったから、サムが家まで迎えにきてくれるとな。

あぁ、ハリウッド俳優さんが行くようなお店ってどんなところだろう♡

やっぱちゃんとした服着てかないと失礼かな?

普段デニムにTシャツのわたし。

店名はあえて聞かなかったから、そこがカジュアルなのか、ちょっといい感じのところなのかわからず、あーでもないこうでもないと服選びに迷う。

こういう時間も好きだったり。

とはいえ、そんな大そうな服なんて持ってないんだけど(笑)

クローゼットの奥に眠るドレス(ワンピース)に手を伸ばし、ちょっとだけヒールのあるパンプスを合わせてと。

どっちに転んでも良さそうなドレッシーすぎない、シンプルな黒タイトドレスを着ることに。

久々のドレスに多少窮屈感を覚えながら鏡で全身チェック。

うん、これなら大丈夫っしょ。

おうちファッションショーを楽しんでいると、ピロンと軽やかなテキスト音が鳴った。

お家の前に着いたよ、赤い車ね。

サムからのメッセージだ。

え~赤の車とかなんかおしゃれな感じじゃないの~。

赤のスポーツカーだったりして。

妄想が膨らむ。

コツコツとコンクリートに響くヒールの音を聞きながら、背筋を伸ばしルンルンで外に出た。

あれ?赤い車なんてないけどな…。

あたりを見渡すもそれらしきピッカピカの赤い車は見当たらない。

そう、わたしの中では真紅のピッカピカに光るかっこいい車をイメージしてたんだよね。

キョロキョロしていると視界に動く何かが入り、そちらに目を向けると…

…窓から手を出し、ぶんぶんと大きく振り回している人がいるぞ。

ちょっ…、まさかあれがサムの車!!!!??????

Helloと大きく手を振る先にはサムの姿が。

うん、たしかにあれがサムであることは間違いない。

でもさ、ぬわんだあの車は!

赤の塗装がはげたような、くすんだ朱色のセダン。

まずこれは赤ではない!どちらかというとオレンジだろ!!

車側面には黒いライン、鉛色の錆びたタイヤのホイル。

軽く20年落ちしてそうな年式の古い車が停まっているではないか!

いくら車に疎い私でも、クラシックとボロ車の違いくらいはわかるぞ。

なーんか嫌な予感がうっすら脳裏をよぎる。

Hi, how are you?

軽く挨拶をして車に乗りこうもうとしたとき、わたしはさらにギョッとした。

助手席の黒いレザーは縦横無尽に無数のシワが入り、くたびれている。

しかも、座る部分には穴が開いていたり、レザーがめくれているじゃないか!

いかん!これはいかん!

完璧ボロ車の方だ。

うちのお父さんの軽よりはるかにヤバいじゃん!

恐る恐るシートにお尻をつけ、顔がひきつるわたし。

「今日行くレストランは、もうこの近くなんだよ~」

そういいながら、車はガタガタと音を立て出発した。

窓の外へ目をやると、ムードあるパティオで楽しそうに食事を楽しむカップルや、おしゃれなレストランに入る人達。

さて、サムはどんな素敵なところに連れていってくれるのだろうか。

まだ期待は捨てていない。

そうこうしてると、5分も走らないうちに、見慣れたモールへ”Classic Car サム号”が入る。

「あ、このモールわたし知ってるよ。たまに学校の子とランチに来るタイ料理屋さんがあるんだよね~」

「え!!そのレストランだよ、僕がお気に入りなのは(笑)」

…マジかよ!ごく普通のタイ料理屋さんだし、そんな絶賛するほどの味でもないし、何ならでとっておきだからって連れてくるようなレストランじゃなーい!!!!しかも黒ドレスとか確実浮いてるやつな!むしろデニムにTシャツで十分だわ!!

「そうなんだ~偶然だね~。でもここ美味しいよね」

顔面ひきつりながら、やっとの思いで答える。

「あぁ、お腹すいたな~じゃ、いこっか♪」

サムはわたしの思いなんて知る由もなく、足取り軽やかに店内へと入っていった。

そして彼の後ろをトボトボ歩く勘違い系アラサー女。

「ここの料理、全部本当に美味しいんだよ~。好きなもの食べてね!」

子供のように無邪気な笑顔で話すサム。

…わたしは一体何を期待してたんだろうか…。

美味しいものに目がなく、食べるのが好き=おしゃれで美味しいレストランを知っている、そう勝手に思い込んでいて、その上俳優さんだから業界関係者御用達みたいな、わたしが行ったことのないような場所に連れてってくれるのかも♡

なんて気持ち悪いことを妄想してたのが、そもそも間違いだった。

決してサムは悪くない、わたしがただ1人で舞い上がってただけ。

そう自分に言い聞かせながら、いつも食べているイエローカレーを口に運ぶ。

「わぁ、やっぱここのパパイヤサラダは絶品だね~」

嬉しそうに頬張るサム。

そして話題はサム出演のスターウォーズもどきについて。

どんなストーリーで撮影現場が楽しかったとか、そういったたぐいの話。

わたしはこのしょんぼりした気持ちを隠すため、必死に作り笑いをするので精一杯。

ネイティブとの会話を楽しむぞー!って意気込んでいたのに、気分が乗らず話半分、耳はちくわ。

もう1度いう、サムに落ち度はない。

ここまでは。

「あぁ、お腹いっぱい!美味しかったね~」

眉毛と目の間が狭い、欧米人特有の顔をしたサムの目は、今にも眉毛と一体化しそうなくらい細くなり、ニッコリと満足気な表情。

「そだね、美味しかった~」

「このあとどこか飲みに行く?それかまた今度ゆっくりでもいいし」

「そだね、今日はこんな感じで次回ゆっくり飲みに行こ」

適当に合わせる、わたし。

ちなみに、わたしの英語レベルは酷く、スムーズに会話なんてできていない。

簡単な言葉で話してくれていたんだろうけど、実際サムの言うこと半分くらいしか理解してなかった。

それでもネイティブと1対1で話せたこの時間は、わたしにとって貴重なモノになったことは変わりない。

だからヨシとしようじゃないか。

そう言い聞かせ、サム号に乗った。

迎えに来てくれた家の前に駐車するサム。

早く車から出るべきなのか、少し話すのが普通なのか、どうしたものかと考えつつサムの方へ目をやると、少し真剣な表情でこちらの方へ距離を縮めてくるサム。

そしてちょっぴり愛おしそうな表情をしながら手を伸ばし、わたしの頬をやんわり撫でる。

…えっ、ナニコレ?どうゆうやつ?

いきなりそういう展開…???

困惑していた次の瞬間、サムの大きな体がわたしへ覆いかぶさり、シートレバーが引かれた。

ブンっという音と共に、助手席がフラットになる。

そしてわたしはシートと共に寝そべるような形に。

…これはヤバいやつ!!

「サムっっ!ちょっと待っ…!」

抵抗する間もなく顔をおさえられ、サムのくちびるがわたしへと…。

脚をバタバタ、手でサムの背中をボコボコを叩き、ヴーヴーと必死に訴えるわたし。

サムの体が離れたすきに、勢いよくドアを開けわたしは車を飛び出し、急いで家の方へと駆けだす。

ヒールなんて履きなれてないもんだから、うまく走れるわけもなく、テケテケさぞかし無様な姿だっただろう。

後ろを振り返る余裕もなく、家のドアを開け、バタンと閉めた。

はぁ、はぁと息を上げ、心臓がドクッドクッと体全身を鼓動うつ。

カーテンの隙間から外の様子をうかがうと、もうそこにはサムの車はなかった。

…わたし一体何やってんだ…。本当バカみたい。

日本で「僕、俳優やってます」って人に出会っても「ふーん、そうなんだ」くらいにしか思わないのに、こっちで俳優さんならハリウッドスターだ!みたいにさ勝手に舞い上がって、何を期待してたんだろう。これじゃその辺のミーハー女とわたしも同族だわ。

キスについては正直どうでもよかった。

2人きりで密室になるんだもん、可能性ゼロじゃないことくらいはわかってるし、もういい歳なんだから、あれくらいでは驚きやしない。

ただ自分自身がマジでキモいやつすぎて…嫌悪感しかなかった。

その後、サムから連絡はちょこちょこきてたけど、適当に返事をしてたら連絡が来なくなったし、あれ以来会うこともなかった。

後日Sちゃんから聞いた話によると、サムはあのスターウォーズもどきに出てはいたけど、いわゆるエキストラくらいのちょい役だったらしい。

ハリウッド俳優…そりゃピンキリですよね(汗)

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